植物が染まる仕組み
1.浸染
草木染の染め方には、摺染、浸染、煮染、引染などがありますが、一番身近な浸染を例にとって草木が染まる仕組みを説明しようと思います。「浸染」とは、材料を細かくして熱湯などで抽出し、漉してから別の容器で糸や布などを浸して染める方法です。
◆ 植物を煮出すと・・・。
植物は生き物なので、とても沢山の細胞から出来ています。植物を煮出すと、彼らの中の「水に溶けやすい」物質が煮汁の中に出てきます。その中には色素をもっているものもあり、その物質の元である分子が、科学反応や相互反応の担い手である「手」(官能基)を持っているとします。

そこに繊維である糸や布を入れると、繊維分子と相性の良い色素分子がくっつきます。これが染まると言う現象です。
「色素」とは、水に溶ける、色を持っている(可視光での反射特性)、手を持っているという3つの性質を備えている物質の事を指し、その「色素」を含んでいる天然のものを称して天然染料と言います。草木染の色は再現が難しいと言われていますが、天然のものは個体差があり、同じ材料でも、土地や気候、採取した時期などが違えば染まる色も変ってきます。一筋縄ではいきませんが、それが逆に貴重で魅力的でもあります。
2.絹と綿の染まり方の違い
◆ 染まりやすいもの、染まりにくいもの
染める対象である糸や布には、絹やウール、木綿、麻、和紙などがあります。絹やウールは染まりやすく、木綿や麻などの繊維は染まりにくいという特質があります。
絹(シルク)
綿
絹はフィブロインというタンパク質から出来ています。十種類以上のアミノ酸から構成されバリエーション豊かな手を持っているので色素分子とくっつきやすいのです。
綿はセルロースで出来ていてその構成分子はブドウ糖だけで一種類の手しか持っていません。結合出来る色素が限られてきます。


そのため木綿を濃く染めたい場合には、下地処理として、大豆のタンパク質をつける(呉汁処理)、五倍子(ヌルデの葉に出来る虫コブ)などで下染めする(タンニン処理)などを行います。なお、麻はリグニンなどが含まれているため、そのままでも染まりやすい場合もあります。
3.媒染
古から先人達はより良い染めを行うために色々と工夫を凝らしてきました。その1つが染料と繊維を仲立ちして固定させる媒染という工程です。
例えば、平安初期の「延喜式」の中には 「韓紅花 綾一疋 紅花大十斤 酢一斗 麩一斗 藁三囲 薪百八十斤 帛一疋」 「深蘇芳 綾一疋 蘇芳大一斤 酢八合 灰三斗 薪百廿斤 帛一疋」 と記載されていますが、この中の酢、麩(ふすま)、藁(わら灰)、灰(あく)が助剤または媒染の材料に値します。この時代は発色効果として主に灰が使用され、この灰は椿灰と言われています。

現在も、明礬(アルミニウム)、鉄漿(おはぐろ)などの金属イオンや、椿灰などを使用します。金属イオンは配位結合という方法でくっつきたがる配位子をたくさん持っているものが多いので、金属イオンが溶けている(媒染液)に繊維を浸たした後、染液に浸すと、色素分子がより繊維につきやすくなります。
また媒染により化学結合の変化が起こり、私達の目に入ってくる色も変ってきます。アルミ媒染では、色素本体の彩りが強くなり、鉄媒染では、暗みがかった色に変化します。

4.媒染すると染まりにくくなるもの
ほとんどは上記1~3のやり方で、きれいに発色されるのですが、逆に媒染すると染まりにくくなる植物もあります。
たとえは、黄蘗というきれいな黄色の内皮の染料は、ベルベリンというとても強いプラスの電気を持っている分子で、金属イオンとは相性が悪い。クサギやクチナシ、ウコンなども媒染しない方がきれいに染まります。
また、上記の方法で染まらない代表格に、藍と紅花がありますが、これは改めて別の機会に述べたいと思います。
5.化学染料と天然染料の色の出方の違い
化学染料は、単一成分に近い色素が多いので、三原色の理論に沿って色を作り出す事が出来ます。色相・彩度・明度を数値で管理し、狙った色を再現しやすいという特徴があります。ただ、3種類以上の色を混ぜると色が暗くなり染色堅牢度も低下してしまうので、2種類の混色が適していると言えます。
一方、天然染料は1つの染料に元々複数の色素成分が含まれているため、違う色の染液を直接混ぜてもきれいな色にはなりません。そのため、いったん染めた布の上に違う色の染液で重ねて染めると言う染め方をします。色の再現や安定性には欠けますが、重ね染めするごとに絶妙な風合いや色彩が生まれて来ます。化学染料は脱色することは出来ますが、植物染料は脱色することは出来ません。

6.草木で染めるとは・・
人間国宝の染織家、志村ふくみさんは、草木染の色は植物の生命からいただいものだと言われています。
草木を単なる材料として見るだけでなく、その性質に合った形で接することにより、良い色を草木からいただけるのだとされています。
草木染めは自然界の物を使って染めるため、安全性が高いと言えますが、もちろん、中にはかぶれたりするものもありますし、金属系の媒染剤の使用など、すべてが安全と言えるわけではありません。それでも、自然と向き合うことの出来る魅力にあふれた染めだと思っています。
次回より具体的な材料を用いて説明しようと思います。機会がありましたら、ぜひトライしてみて下さい。
(次回 身近なもので染めてみよう~アボガドの皮と種で染める)

染料:インド藍・キハダ・焼明礬・鉄漿 技法:平織・髙機
参考文献:天然染料の科学(青木正明)、染太郎の口伝帳(北澤勇二)「染織 染めを知る」京都芸術大学、「語りかける花」「色を奏でる」志村ふくみ、文、写真、作品 永井智津子