アボガドの種と皮で染める

アボカドはクスノキ科ワニナシ属の常緑高木で、メキシコ南部から中央アメリカを原産とし、野生種はすでに約1万年前には人々に利用されていたと考えられています。日本へは明治時代後期から大正時代頃に植物として紹介されましたが、ほとんど普及せず、一般の人が食べるようになったのは1980年代以降とされています。
アボカドの種や皮で染まることは、長年一部の染色家の間で知られていましたが、専門的に取り上げられる事はほとんどありませんでした。2010年代、種や皮でピンクが染まるという意外性や、食品廃棄物を活用するサステナブルな染色法として徐々に注目されはじめ、2020年に米国の外食チェーン「チポトレ」が廃棄されるアボカドの種を利用した製品を発表したことを契機に、その名が広く知られるようになりました。日本でも2020年前後から草木染め作家や研究者の方々が実験や情報発信を始め、ブログや動画などを通じて広く紹介されています。
アボカド染めは日本の伝統的なものではありませんが、比較的手に入りやすく、また歴史が浅いため新たな発見も今後期待出来ることから今回取り上げる事にしました。
【アボガド染めの特徴】
アボガドの種や皮には、カテキンやエピカテキンなどのポリフェノールと、それらが結合して出来た縮合型タンニン(プロシアニジン)が含まれています。タンニン自体は色を持っていませんが、加熱すると、カテキンや縮合型タンニンが溶け出し、空気に触れて酸化され、酸化されたポリフェノール同士が結びつき、特有なピンク色に発色されると見なされています。
実は、「アボガドがなぜピンク系色になるのか」は、まだ完全には解明されていません。普通、酸化すると茶色になりますが、ポリフェノールの種類が豊富なため、酸化の途中で赤味を帯びた中間生成物が多く生じてくる、つまり茶色になる前の赤味のあるものを染料として利用しているのではないかという説が今、最も有力です。
【染色工程】

アボガドの皮と種を丁寧に洗う。種はきざんでしばらく置くと赤くなる。すぐ使わない時は冷凍保存する。(種は、熱湯につけておくと柔らかくなります。きざむ時は滑りやすいので注意)

分量は、木綿の場合、染めるものの約400%以上が目安。弱火でゆっくりと加熱する。沸騰させず、静かに煮立つ程度。過度な加熱をすると色が濁りがちです。(絹や毛糸の場合は染まりやすいので100%~200%ぐらいでも良い)

弱火で30分ぐらい。 だんだん色が出てくる。

漉す。同じ様にして2番液をとる。

漉した液を攪拌させると赤味が増してくる。

一晩寝かす。(二晩寝かすとかなり色に赤味が増す)左:一番液 右:二番液


一晩置くと色が濃くなる。2番液の方が色が濃い。

二晩置き、2番液(赤味が強い方)を使用する。弱火で40℃~60℃ぐらいに加熱する。

火を止め、重曹を一つまみ入れてph7.5-8ぐらいにする。(水道水はおおよそph6)

右 重曹を入れると赤味がましてくる。

液に布等を素早く入れる。

蓋をして(火はかけない)20分~30分ほど置きます。(火をかけると酸化が進み茶味が出るため)

ピンク色になりました!無媒染の場合は、そのまま4回ほど洗って陰干しします。もう少し色を入れたい場合は、弱火で液を再び60℃ぐらいまで上げ火を止めてからまた、液につけて下さい。

アルミ媒染をする場合・・媒染液を用意します。水を入れたボールに染める素材の約6%ほどの焼き明礬を透明になるまで沸騰させます。透明になったら、水を入れて量を調整し、先ほど染めた布を15分~20分ほど入れます。

アルミ(明礬)媒染液は酸性なのでつけると黄色味に変化します。(ph4)付け終わったら良く洗って染液に戻します。

染液に戻し20分ほどつけてから洗い陰干しします。

椿灰媒染の場合です。 (ph10~11)椿灰はアルミを含んでいますが、アルカリ性のため黄色くなりません。媒染した後は良く洗います。

木綿の場合(呉汁下地なし)
無媒染・・かわいいピンク色になりますが、一回では染まりにくいので、何回か液につける必要があります。
アルミ(明礬媒染)・・媒染すると黄色みが増しピーチ色に傾きます。
椿灰媒染・・濃いピンク色になります。
絹、ウール
媒染なしで、一回の染めできれいに染まります。
【ピンク色にならない理由を探る】
実のところ、アボガド染めをしてみたけれど、ピンク色にならずピーチ色になったという投稿が多く見られるので、何回か実験して感じた事を並べてみました。いかにして茶味を少なくするかという事がポイントなのですが、まだ世界的にも事例が少ないため、これが完全に正解というものでないことをご了承下さい。
① 絹、毛糸は、媒染しなくてもピンク色になりやすい。(木綿はサーモンピンクに傾きやすい)
② 木綿は呉汁処理をすると色が濃くなる(茶系に傾く)傾向がある。 呉汁処理をしなくても染まる。
③ 木綿を染める場合は、染材を染めるものの400%ぐらいに多めにする。 (量が少ないとベージュになりやすい)
④ 水からゆっくりと弱火で加熱する。 沸騰しすぎると茶味が増す。
⑤ 1日~2日寝かすと赤味が増す。攪拌しても良い。
⑤ 少し液をアルカリよりにすると赤味が強くなるので、染液を作る際に少しだけ重曹を入れる。(phは7.5-8)
⑥ 重曹を入れるタイミングは、煮出して漉し一晩~二晩置いた後、染める直前、少し加熱した後に火をとめてから入れると良い。(アルカリ条件では酸化速度が速くなるので、入れた後、煮出すと茶味が進んでしまう。茶色や褐色の高分子色素へと変化してしまうため。)
⑦ 1番液より、2番液の方に重曹を入れた方がきれいに染まる傾向がある。(一番液の方がタンニンが多い?)
⑨ アルミ媒染をすると酸性に傾くため、若干黄味が増す。椿灰媒染の方がピンクに近くなる傾向がある
以上を踏まえ、成功例と失敗例を掲載しますので、参考にしてみて下さい。
成功例
失敗例
染める生地の350%~400%の材料。2番液を使用。漉した後に少量重曹を入れて一晩置いた。アルミ媒染をしたら色が薄くベージュよりになったので、椿灰媒染に切り替え+染液につけるを3回ほど繰り返し、灰汁止めにした。(液は60℃ぐらいを保った)呉汁下地のものは生地によって茶味が濃くなった。絹は染まりやすい。(2026年2月)
●染める生地に対して材料が少ない(100%~200%) 染液の濃度が低い。
●最初から鍋に重曹を入れて煮出した。一番液を使用した。一晩置く内に酸化がどんどん進み茶味が増してしまった。
●染液に赤い色素が存在しているのに、木綿には黄色系の方が吸着した。黄色いタンニンだけが多く残った。冷凍保存の期間が長すぎた? (2026年5月)


まだまだ、発展途上の染めのため、うまく行かない事も多いかもしれませんが、それ故にきれいなピンク色に染まった時は感動ものです。アボガドを食べた後に、ちょっとトライしてみようかなと思って頂ければ幸いです。
参考文献:「染織 染めを知る」京都芸術大学、Natural Dyeing with Avocado: Pits vs. Skins(海外のブログなど)、Valorization of Avocado (Persea americana) Peel and Seed: Functional Potential for Food and Health Applications、Analysis of Phenolic Composition of Byproducts (Seeds and Peels) of Avocado (Persea americana Mill.) Cultivated in Colombia 2019年 Molecules 文、写真、作品 永井智津子