2024年7月の初旬にスイスアルプスを訪ねました。登山や観光の拠点となるグリンデルワルトやツェルマットの町に滞在し、列車やケーブルカーなどとハイキングを組み合わせていろいろなコースを楽しむことができます。
遅かった雪解けが急に進んだこの年の7月は、ふもとから高山まで一斉に咲きだした鮮やかな花々が大地に広がっていました。氷雪をいただくアイガーやマッターホルンなど4000m級の山々と氷河を背景に、アルプスの三大名花と呼ばれるアルペンローゼ、エーデルワイス、エンツィアン(リンドウ)をはじめ、オキナグサやスミレ、キンポウゲやユキノシタのなかまなど多くの花を見ることができました。





スイスアルプスの植生は、日本の東北や北海道と似ています。標高約400mのレマン湖周辺はブナやナラなどの落葉広葉樹林帯で、村にはブドウ畑が広がっていました。標高約1000mのグリンデルワルト付近では落葉広葉樹にトウヒやカラマツなどの針葉樹が交ざり、さらに登ると一面に針葉樹林が広がる亜高山帯になります。標高2000m以上では高山帯となり、地形によってハイマツやネズなどの低木林や高山草原に、氷河、岩礫地などが入り組んでさらに高所まで続いています。そして、日本と違うのは、低地から高山にまで放牧地が広がっていることです。
(樹種は日本のものと似ていますが別種のようです。)
<左>レマン湖畔のブドウ畑 <中央>牧草地の広がるグリンデルワルトの村 <右>針葉樹の森とマッターホルン





<左> 放牧地のお花畑とマッターホルン <右> 氷河
若い頃初めて日本アルプスに登り、高山植物を見たとき、「ハイジのお花畑だ~」と思ったのは大間違いでした。日本の高山のお花畑と「アルプスの少女」に出てくるお花畑は成り立ちが異なります。「アルプ」というのはもともと「山の牧草地」を意味し、氷河の下に広がるお花畑は多くがウシやヤギを放牧するところです。
家畜が草木を食べることで草原が保たれ、糞が肥料となって多くの植物がお花畑をつくるのです。アルペンローゼもバラではなくツツジのなかまで、日本のレンゲツツジやアセビ同様に有毒で家畜が食べないためにふえた植物です。すべてが自然の営みで成り立っている日本の高山のお花畑に近いものは、スイスアルプスでは3000m付近の岩礫地まで登ったときに見ることができました。
スイスアルプスのお花畑は、放牧をやめてしまうと次第に低木林となり、やがては針葉樹の森に移り変わってしまいます。観光資源でもある景観や生物多様性を守るために、放牧の持続や草刈りなどによって、草原を維持する努力が続けられているようです。
近年、日本でも里山の田畑や雑木林、茅場のような人と自然が共につくってきた環境の価値が見直されてきました。私たちも、世界に誇れる日本の高山植生や原生林と、身近な里山の自然、どちらも大切に守っていきたいと思いました。 (写真、文 坂本玲子)



