野鳥と森林生態系


野鳥は森林から大きな恵みを受けて生活しています。野鳥が生きていくためにはまず食料が十分あること、そして天敵から隠れたり安心して夜を過ごす場所、人間で言えば家にあたる場所が必要です。また巣を作るのに適した場所が有ることも重要です。

スラッと天に伸びたブナやカツラやケヤキなどの高木、カエデ類などの中層木、ガマズミなどの低木と多くの樹種が育つ落葉広葉樹林では、樹々が季節ごとに様々な実をつけ、林床の草花も多くの種を実らせます。林内には多くの昆虫が生息し、落ち葉の下にはミミズやダンゴムシなども沢山います。これらは全て野鳥の貴重な食糧となります。

森林の多様な環境は鳥の隠れる場所や営巣場所も提供しています。大木の林冠や樹洞は大型の鳥の営巣場所となり、老木や枯れ木にはキツツキ類が樹幹に潜む虫を捕ったり営巣場所として穴を掘り、またその古巣をゴジュウカラなどの他の鳥が利用し、更にモモンガやムササビなの動物も巣として利用します。林床の茂みにはウグイスやヤブサメなどが好んで住みます。

一方森林の植物も野鳥から恩恵を受けています。ヤブツバキやサザンカなどは虫が少ない冬季に花を咲かせますが、これらの木はメジロやヒヨドリなどの野鳥が花粉を運びます。木の実・草の実は野鳥の貴重な食物ですが、植物としては子孫の生息域を広げるために野鳥に種を散布してもらいたいのです。その為、実をわざわざ赤や黒といった野鳥に目立つ色にし、種の周りには美味しい果肉をつけて野鳥を呼びます。カラスザンショウ、ヌルデ、アカメガシワ、クサギなどは森林内の日当たりが良い場所に自然に生えてきますが、これは野鳥によって森の中にまき散らされた種が、土の中で休眠しながら日当たりが良くなって発芽できる状態になる時を待っているからです。

こうした様々に依存しあう動植物・微生物などの関係や、それらを取りまく水・栄養素・酸素・二酸化炭素などの循環する物質環境も含めて「森林生態系」と呼びます。どの動植物もなくてはならない存在ですし、また複雑な「系」になっているが故に、害虫や病気、台風などで一部が損傷しても他の部分が補完して「系」として存続し再生する力強さも持っています。

猛禽が棲息しているので開発を止めようと言う話をよく聞きますが、これは猛禽が棲息できる森は人間活動の影響が少なくて豊かな自然環境が残されているので、そこを守ろうとするものです。猛禽がいるとなぜ自然豊かな森と言えるのかは「食物連鎖」という考え方から説明されます。ドイツでの研究事例を紹介しましょう。

1羽のハイタカは生きていくためにシジュウカラ換算で1年間に779羽捕食します。1羽のシジュウカラは1年間に12万5000匹の虫(マツシャクトリムシ)を食べるので、ハイタカ1羽は約1億匹の虫を食べている計算になります。1億匹のマツシャクトリムシを養うにはキハダ林で420ha(約2Km四方)が必要です。これだけの広い森林が無いと猛禽の食糧が確保できないのです。

また全てのエネルギーの基となる太陽エネルギーの利用効率は、食物連鎖の中で一桁ずつ低下すると言われます。植物、昆虫、小鳥、ヘビ、と捕食関係が続き最終的に猛禽がヘビを食べる場合は太陽エネルギーの百万分の一といった利用効率になります。
これだけ贅沢に自然の力を利用して棲息しているのですから、猛禽が棲息できるのは自然環境が豊かで健全な生態系が維持されている場所であり、猛禽は自然保護の指標ともされるのです。(安武 弘幸)

参照HP)環境共生住宅推進協議会「鳥と共に暮らす」

ハイタカ
シジュウカラ


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