鳥の貯食


冬は野鳥にとっては大変厳しい季節です。夏鳥は餌の豊富な南方へ渡りますが、留鳥と冬鳥は日本で冬越します。多くの当年生まれの若鳥は冬を越せず死んでいくのが現実です。

餌は主に草の実、木の実、それからミミズなどの小動物です。猛禽類は小鳥やネズミ、カモ類を捕獲します。
木の実は野鳥の大切な食料で、一般的には実りの秋に実をつける樹種が多いのですが、冬に食べごろになる木の実もあります。樹木は種子の散布を鳥に依存しているものが多いので、一年中何らかの樹木が代わる代わる実をつけてそれぞれ確実に鳥の餌となり種子を運んでもらうようになっているのでしょう。
例えばイイギリの真っ赤な実は初冬の青空を背景にしてたいへん美しく見えますが、ヒヨドリがこの実を食べるのは1月半ば頃からです。その前はどうも苦くて悪臭が有りとてもまずく、鳥も食べないようです。ナンテンやマンリョウなども鳥が食べるのは年が明けてからで、アオキの実が熟すのは2月以降です。

秋の間に木の実を集めて樹木の隙間や土の中に埋めて隠しておき冬の食料とする「貯食」をする鳥としては、コガラ、ヤマガラ、カケス、ホシガラスなどがよく知られています。
コガラはヒガラが低山に移動する様な雪が多い年でも山に留まり、冬山を歩くと梢の間でよく見かけます。コガラが雪山に留まれるのは秋の間にドングリなどを蓄えておくためで、志賀高原での調査では、10月に採った食物の9割は蓄え、冬の間の食料の7割は秋に蓄えたものだったと言います。
カケスもドングリを好んで地中に埋めて蓄えます。ドングリが下へ転がるだけでなく親木の上の方にも芽を出せるのは、カケスやネズミなどの貯食行動によることが多いのです。
高山に生えるハイマツはホシガラスの好物で、ハイマツの生存領域拡大はホシガラスに負うところが多いといいます。

ヤマガラもシイやエゴノキの実を好んで地中に蓄えますが、隠した位置は近くにある何らかの目印を記憶しているらしく、三宅島に於ける調査では98%埋めた場所を覚えていたそうです。

貯食した場所の記憶(空間記憶)は脳の海馬という部分が担っていますが、海馬は必要に応じて大きくなったり小さくなったりする性質が有り、貯食行動をとる鳥の海馬は秋から冬に大きくなります。また人間でも込み入った道路を的確に運転するロンドンのタクシー運転手は海馬が発達しているそうです。                                                             (安武 弘幸)

カケス
ヤマガラ


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