草花観察ヒント集


[身近な草花の春夏秋冬]

寒さが少しずつやわらぎ、春のきざしがあちこちに感じられるようになるこの季節、私達のまわりにはたくさんの生きものがうごめき、さまざまな営みが見られます。いつも歩いているような見慣れた道ばたにこそ、たくさんの発見にあふれています。
さあ、身近な自然観察に出かけましょう。

アスファルトのすき間に小さなスミレを見つけました。ここには土がたまっていてどうやらそこで根を生やしているようです。この小さなスミレは、その名もヒメスミレです。
スミレの仲間は、種子にエライオソームという白いかたまりをつけています。
このエライオソームは脂肪酸や糖などを含んでいるので、アリを引きつけます。
アリによって運ばれた種子は、エライオソーム以外は捨てられ、アリの巣穴の近くでそのまま発芽、思わぬところから生えてくるのです種子をいかに遠くまで運ぶか、ヒメスミレはいわばその手段としてアリと共生しているようです。
すき間にそって点々と花をつけているヒメスミレを見ると、アリが一生懸命に運んだ努力のあとが見られるようで、いとおしく感じられるのは私だけでしょうか。

空き地には、まだ寒さも本番の頃からホトケノザが花をつけていました。
二枚の葉が茎を取り囲むようについていて、名前のとおり仏様の台座のように見えますね。
よく見ると開花している花と、色の濃いつぼみが混在しています。
この色の濃い丸いものは、つぼみのまま受粉して実をつける花、閉鎖花(へいさか)です。
風や昆虫に花粉を運んでもらう開花している花(開放花)と閉鎖花をつけることで
確実に子孫を残そうとする、執念にも似たホトケノザの戦略がよく分かります。

黄色い花をつけているのはタンポポです(タンポポの種類は雑種も含めてたくさんありますのでここでは総称してタンポポと表記します)
花をよく見ると虫がもぐりこんでいました。
ハムシの仲間で、どうやら花粉を食べているようです。
花粉とは、おいしいのでしょうか。
また、この日は晴れていたので、タンポポの綿毛がオランダミミナグサにひっかかっていました。遠くに飛ばそうとしたところ、思ったより風が吹かず、近場に落ちてしまった,もしくはオランダミミナグサの茎や葉、苞にびっしり生えた毛にひっかかってしまった…そんなところでしょうか。

花粉を食べるハムシの仲間
オランダミミナグサに引っかかった綿毛

光の当たる具合によって表情を変える緑や赤いじゅうたんは、ヒメオドリコソウです。
道端に群生している様子は、たくさんの踊り子のように見えるでしょうか?重なり合った葉の隙間からピンク色の小さな花がのぞいています。
下から上にいくにつれ、葉は緑色から赤紫色のグラデーションを帯びて、不思議な色合いを見せてくれます。
ヒメオドリコソウはシソ科ですから、葉が対生(2枚の葉が同じ場所から出ている)していますが、その葉が円すい状にもりあがった様子は、なんとも面白い姿です。
円すい状に盛り上がった植物といえば、ヒマラヤにセイタカダイオウという大型の草本があります。セイタカダイオウは、苞葉が花を覆って温室のような役割をしていることで知られていますが、ヒメオドリコソウの葉も花芽を守るような役割をしている…のかもしれません。
足元で繰り広げられる生きもの営みとドラマをのぞき見してみるのもひとつの春の楽しみ方ですね。(文、写真 斎藤美穂子)

日差しが強くなり、青空に白い雲が映える夏がやってきました。千葉の夏といえば、海!ということで、房総の海辺にやってきました。
どのような植物が観察できるでしょうか? 海岸に近い森は、一面の濃い緑に覆われています。タブノキや、マテバシイ、スダジイといった冬でも葉を落とすことのない常緑広葉樹の森です。

海岸に近いところの森をよく見てみましょう。海からの風が絶え間なく吹き上がってきますね。そしてこの風の流れに逆らうことなく、森の木々達も枝葉を刈りそろえたかのように見えます。加えて樹高(木の高さ)も低く、まるで寝ているような形になっている木もあります。海からの強い潮風によって枝の生長に影響があり、風下側に枝が伸びる独特の樹形になっています。このような樹木の形態は、風衝樹形(ふうしょうじゅけい)と言われます。

林縁や崖地には、まだガクアジサイが咲き残っていました。房総の海沿いで見られるガクアジサイは、アジサイの原種ともいわれ、自生しているものです。つややかで大ぶりな葉に青や赤紫の花は、夏の到来とともに咲き始めます。

ガクアジサイが見られるような海に面した崖地や、波しぶきのかかる海浜は、内陸とはまた違う植生が見られます。海からの潮風、飛砂、照り付ける日差しなど、内陸よりも過酷な環境に耐えなければならないためです。このため、葉を厚くしてクチクラ層を発達させたり、水分を求めて根茎を発達させたり、また子孫を残すため、海流散布という海の流れに乗って分布を拡大させたりと、厳しい環境を生き抜いてきた海辺の植物たち。
春から夏にかけて、つかの間の時期には色とりどりの花をいっせいに咲かせます。その花ひとつひとつを咲かせるために、厳しい環境を生き抜いてきた海辺の植物たちに思いをはせてみてください。(文、写真 斎藤美穂子)

ハマナデシコ
スカシユリ
ボタンボウフウ
ハマヒルガオ
ハマユウ(ハマオモト)
ハマエノコロ
ハマボッス
イワダレソウ
ツルナ
テリハノイバラ

稲が刈りとられ、二番穂も枯れかけてきた冬間近、秋の田んぼにやってきました。目線を落としてよくよく目をこらしてみると…小さくもかわいい花たちをあちらこちらで観察できます。実は、田んぼに暮らしている草花の観察は、この時期がぴったりです。水が抜かれ、イネが刈り取られた田んぼでは、秋の花がいっせいに開花します。頭上にさえぎるものがなくなり、つかの間の日の光を一身に浴びて咲きだす田んぼの花々。秋の田んぼは、そんな草花でにぎやかです。田んぼの一角だけで何種類の花が見られるでしょうか?ここではその一部を紹介しましょう。

この時期、田んぼの畔や、湿った道路沿いにたくさん生えているのはコブナグサです。夜の気温がだいぶ下がるころになると
全草が紅葉して一面の草紅葉になります。

コブナグサ
コブナグサ

コブナグサとともに田んぼの畔によく見られるのはヒメジソやヒデリコです。ヒメジソは細かくて白い花を次から次へとたくさんつけます。
名前のとおりシソ科ですが、あまり匂いはしません。ヒデリコはカヤツリグサ科の小さな一年草です。
線香花火のようなかわいらしい穂は、一度見たら忘れません。

ヒメジソ
ヒデリコ

乾いた田んぼの中をのぞいてみましょう。小さな花たちがたくさん咲いていますよ。

トキンソウ
アゼトウガラシ
ハイヌメリ

ちなみにイボクサは、乾いた環境でも水中でも問題なく成長します。キクモは、田んぼに水が張ってある間は水中葉を、乾いた環境では葉の形を変えて成長します。田んぼの草花は、その時々で形態を変えて生活しているものも多く、とても面白いですね。

イボクサ
キクモ

最近では、様々な外来種も田んぼで見られるようになりました。だいぶ隆盛を誇っているのは、黄色い花が目立ち、背が高くなるヒレタゴボウ(アメリカミズキンバイ)ですが、自然度が高い田んぼでは、似たような黄色い花をつけるチョウジタデやウスゲチョウジタデが見られます。(文、写真 斎藤美穂子)

ウスゲチョウジタデ

最低気温がぐんぐん下がり、吐く息は白く、霜柱があちこちに見られる冬。冬の間、草花たちはどうしているのでしょう?
何もないと思っている地面、よくよく目を凝らしてみると…

まだ冬も始まったばかりというのに、だいぶ背丈を伸ばしているのは、ホトケノザ。
もう、つぼみまでもっている株もありますね。ヒメウズも、青々とした葉をつけています。

ホトケノザ
ヒメウズ

コハコベも落ち葉の下で発芽してだいぶ伸びてきました。

コハコベ

オランダミミナグサやチチコグサは、春を待ちながらまだまだ縮こまっているように見えます。

オランダミミナグサ
チチコグサ

カタバミは、やはり茎をのばすことをせず、地面にはりついています。

カタバミ

地面にちらばっている丸い形をした草も見つけました。葉が重なり合わず放射状に広がっている「ロゼット」です。
葉を重ならないように配置することで太陽の光を効率的に受け、春の開花という一番エネルギーをつかう時期に備え、冬の寒さを乗り切っているのです。

ヒメムカシヨモギ
オニノゲシ
スイバ
タネツケバナ
ヒメジョオン

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